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KAZOKU shirts 知らずに良くなっている世界を知って欲しいジレンマ



僕が最高に気持ちがいいと思う瞬間がある。


それが「知らずに良くなっている世界」である。


例えば

めちゃくちゃ美味しいと思って買っていたら実はその食材は貧困地域とフェアトレードされていて現地の人の生活を改善していた。


みたいなことだ。


フェアトレードだから買おうとか、貧困地域を良くしたいから買おう

とか「善意」に訴えかけて購入するのは確かに素晴らしいし、事実を伝えているのだけれど、資本主義の社会においては「善意」に頼るのは心許ない。


善意がお金を大きく動かすのであれば日本製の洋服も2%になることはなかっただろうし、不当な労働で亡くなる人はいなくなっている。

善意は脆い。


だからこそ普通に「美味しい」とか「かっこいい」とか「機能的だ」とかそういう理由で選ばれてこその商品である、そしてその結果知らず知らずのうちに世界が良くなっていればそれは最高だと思うのだ。


今は技術的に難しいが、例えば車に乗れば乗るほど温室効果ガスが減っていく!しかもかっこいい!

そんな車ができたらいいなぁと思う。


僕が理想とするのはそんな最高のプロダクトであるし、最高の世界だ。


でも企業やブランドが情報を取り扱う時どんな順番で、どんな情報を受け取るのかによってお客様の行動は変わっていくんじゃないかと思う。

だって「知らなかったことを後から知ったからよかった」と思うのと「わざわざ言わなくていいことを言ってくる」は紙一重だから。



 



情報の種類

企業やブランドが発信する情報には4種類あると思っている。


①知ってもらいたくて発信する

②知ってもらいたいけど発信しない

③知ってもらいたくないけど発信する

④知ってもらいたくないから発信しない



①知ってもらいたくて発信する

これはシンプルだ、

いい商品ができたから見て欲しい、こんなこだわりがあるから知って欲しい。

企業が通常行うプロモーション活動だ。

一般的にプロモーションとして出てくる情報のほとんどがこの情報じゃないかと思う。


②知ってもらいたいけど発信しない

この情報の取り扱いは難しい、マニアックなこだわりは作り手としては発信したいのだけれど発信したところでお客様にメリットがない場合は発信しない、もしくは表立っては発信しないけど好きな人は閲覧できるようにしてある。


③知ってもらいたくないけど発信する

この情報は主にトラブルに関する情報や、マイナスなイメージを与えかねないがコンプライアンス上発信するべき情報だ、例えば製造工場の公開や生産の末端で起こっている現状に関しての発信だ。本来この情報は①もしくは②であることが好ましいが、残念ながらアパレル業界では現状そうでない場合が多い、しかしトレーサビリティを明確にという風潮などから発信することで逆に企業としての信頼度が増すと判断した場合は発信するだろう。



④知ってもらいたくないから発信しない

自分たちもお客様も得しない情報は発信しない。

もしくは隠しておきたい事実は発信しない。

この情報発信は非常にセンシティブだと思っていて例えば縫製工場の現状や職人さんの手取りなどリアルな情報を発信するとブランドのイメージが悪くなり売上に影響することもある、顧客にとってもわざわざ必要でない情報である場合もあるし、悪い気分にはなれどいい気分になることはない情報が多い、さらに公開されている現場もそれで幸せになるかといえばそうでない場合もある。

この情報の多くは企業やブランドではなく他者からのアウティングやリークによって発信される場合が多いと感じる。




資本主義国家にとって「買っていただけること」というのは最強の選択である。

まさに「投票」なのだ、そしてその購買に直接関係のない情報をどう取り扱うべきか、それが問題なのである。


 
消費は最も身近な投票だ

僕が何度も、何度も書いているし発信している言葉なのだけれど投票に至るまで幾つかのフェーズがあると思っている。


好き、嫌い


好きだから投票する、好きだけど投票はしない


好きだから投票し続ける。



そしてこのフェーズごとに①〜④の発信する情報の種類は変わってくる。


好き、嫌い

この時に出す情報は①が好ましい、もちろん②の情報が好きな人もいるのだけれど間違えて②の情報から発信してしまうがために苦しくなる場合がある。(それは後で触れる)


例えば純粋な好き嫌いで判断してもらいたい時に「縫製工場の職人の人生が」みたいな話をされても重すぎる。

純粋にその洋服を身に纏いたいか、纏いたくないか。それでいいと思っている。


だから世の中がどんどんと「ストーリーで服を売れ」という風潮になっていることに少し違和感があるのだ。

何でもかんでもストーリーが必要なのではない、まず必要なのは純粋な「好き嫌い」を判断してもらうための要素「デザイン」「機能性」「価格」である。

できるだけ情報は軽く、爽やかな方がいい。



好きから投票する、好きだけど投票はしない


好き嫌いで「好き」だと判断された時やっと投票されるかどうかが選ばれる。

ここで多い失敗が"好き、嫌い"のフェーズの時に間違えて②の情報を出してしまうことだ。


どういうことかというと、

ストーリーやこだわり先行で情報を発信する結果「デザインは別としてその企業が好き」ということになってしまう。

これは僕が一番間違えた失敗なのでよく理解している。


ストーリードリブンでファンを集めることは一見素晴らしく見える。

どこに行っても「応援してます」何をしても「協力します」そう言ってもらえる。


そしてファンが増えたと信じて商品を出す。

しかし売れない。


なぜか、純粋に「会社は好きだけど商品は好きじゃない」いうことが出てくるのである。


どれだけ応援していても「投票」という購入には至らない、だってその商品を好きなわけじゃなくて人や企業が好きなだけだから。


とても幸せなことなのだけれど、売れないと企業としてはきつい。


だから一番最初に出す情報が大事なのである。


軽くて、爽やかな情報を出して「好き」だと言ってくれた人に②の情報は非常に有意義なものになる。次のステップに進んでくれるだろう。

でも逆に②の情報から入った人に①の情報を入れたらどうなるか?

ブランドや企業が好きだと思って入ってきているのに急に「商品、価格、機能性」などを伝えられてファンだと思っていたら急に商品を売りつけられた気持ちになる。


せっかく好きになってもらった人が好きじゃなくなってしまうかもしれない。


だから情報は①、②の順番で出さなくてはいけないのだ。



好きだから投票し続ける


このフェーズに入ったら情報の③や④を発信しても大丈夫。

というよりもよりお客様との関係を深めていくためには企業としての真摯な対応が必須である。

取り繕った綺麗な情報だけではなく、裏切らない、隠さない姿勢は好印象だろう。


恋人と出会った時は素敵な部分だけ見せる、仲良くなってきたらその人の本性のいい部分を見せていく、そして仲が更に深まって「信頼」までくると嫌な部分を曝け出していく。


そんな具合だ。




 
それでも伝えたい②③④の話

企業やブランドとして情報を発信する順番が非常に重要だという話をしたのだけれど、

それでも僕は伝えたい情報がある(伝わったところで誰も得しない)


正直縫製業界の現場や職人の生活についてどれだけ書いたところでお客様の生活がよくなることはない。

あったとしても僕たち生産者がそれを期待すべきではないと思っている。


だけどやっぱり僕はこの資本主義の国の中で①の情報ドリブンだと色んなものが狂っていくのを感じる、見た目が綺麗で、安くて機能的な商品が売れていく。


それは当たり前なのだ、

でも①の情報が一人歩きしてどんどん僕たちの生活がおかしなことになってきた。

僕たちだけではなく、日本中のみんなが「何かを作る誰か」である。


サービス、安全、法律、洋服。

誰かが何かを作っていて、僕たちもみんなも何かを作る誰かである。


にもかかわらず①の情報が重視され、②の情報は後回しにされる。

実はとても大切なのに、だって誰かが作った何かを知ることは、自分が作っている何を知ってもらうことになるから。


だからやっぱり伝えたいのだ。


僕たちが作っているシャツがある。

KAZOKUという名前なんだけど、そのわけだけ話をさせて欲しい。


②とか③の内容だから皆さんの生活をよくするものではない、この情報を見たから明日から皆さんの飲むコーヒーが美味しくなるわけではない。



「なんだよ宣伝かよ」

そう思うのであればここで読むのをやめてもらうのをお勧めする。






 
KAZOKUという名前のプロダクト

僕がプロデュースしているシャツがある、それが KAZOKUである。

このプロダクトは②の情報が先行しているブランドである。


ブランド名からして少し重い気がする。


このブランド名はまさに①の情報ドリブンな社会に疑問を抱いているからつけた名前だ。


もし、自分の取引先が家族だったらどうだろう?


これがKAZOKUというブランドのコンセプトである。


例えば自分が働いているメーカーで下請けの工場に仕事を出すときにもしその工場に自分の親が、子供が、孫が働いていたらどうだろう?


不当な金額で、サービス残業を強いるような金額で仕事を出すだろうか?


逆に工場側も適当な品質で、適当な納期で仕事をするだろうか?


もし家族がいたらそんなことはできないはずだ。



僕たちのこのプロダクトは素材メーカーも、製造する職人も、買っていただけるお客様も、もちろん僕たちメンバーも全員が「家族」だったらどうするか?


そう思って作っている。


加工賃は縫製職人が在宅で縫製して日当12,000円を確保できる金額で設計している。


もちろん十分だとは思っていない、でも現状の縫製工場の日当と販売できる価格を考えるとギリギリの金額だ。


検品や発送は全て自社スタッフが行っている。


商品についているスタンプも1つ1つうちのメンバーが押している。


実際外部のプリント工場に頼んだ方が綺麗にできるし、早いかもしれない。


それでもやっぱりお客様に直接思いを伝えたいという経済合理性を全くもって無視したこだわりなのだ。


プリントには英語でこう書かれている。


"This item is made by Japanese sewing craftsmen who had retired once because of various

reasons, and in their homes.

Their sewing machines had stopped working once, but the craftsmen and their machine are

creating the next generation in the sewing culture in Japan."


このシャツは一度は様々な理由によりミシンを降りた職人が彼らの自宅で縫製を行なっています、彼らのミシンもまた一度は止まってしまっていました、しかし職人の手によって再び動かすことは日本の縫製業を次世代につなぐことになります。



職人たちが自宅で、止まっていたミシンを動かし始めています。

この苦しい業界の中で、その心意気や思いを止めたくないと思って直接記載している。



なんとも暑苦しいメッセージだ、だけどやっぱりどうしても伝えたいのだ。





 
出さなくてもいい情報から始まる「無駄なブランド」でありたい

僕たちはいくつかのブランドを運営している。


そのどれもが①からの情報発信を大切にしている。

やっぱりまずは好きか、嫌いかを選んでもらいたい。

その上でブランドが伝えたいことをしっかりつたえて、投票(購入)まで至って欲しいと思う。


だけどこのKAZOKUというブランドだけは無駄な情報から始まるブランドでありたいと思うのだ。


もちろんストーリーを好きになってもらって、想いを好きになってもらって、

さらに購入してもらえるようにできるだけシンプルなデザインをしている。


この商品が皆さんの手に届いて、順番は反対であっても結果として皆さんの生活を豊かにできるように心から祈っている。


このシャツを着ていただいたところでコーヒーの味は変わらない、

街の景色も変わらない、嫌なことだって起きるだろうし、今日も地球は回ってる。


ただ少しだけ皆さんの足取りが軽くなれとても嬉しいと思っている。


KAZOKUの春のシャツの一般販売を開始します。










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